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べーリック・ホールの歩み 第1章



1930年、イギリスの貿易商べリック氏の邸宅として建設されたこの建物。一歩足を中に踏み入れると、まるでお嬢様になったような気分になる女性も少なくないだろう。暖炉のある格調高いダイニングルーム、レディにぴったりといった趣の夫人寝室、太陽の光を浴びてゆったりできるパームルーム、ブルーを基調にしたバスルーム......。家具の一つ、小窓の形一つとっても、人の心をとらえる力を持っているようだ。




~子どもがホンモノに出会う場所~

誰もが漠然とイメージする「素敵な家」を具現化したかのような、現在のべーリック・ホールの姿。大人が優雅な時間を楽しむ場所なのだから、子連れではちょっと......そう判断する人もいるのでは?ところが、それは大きな間違いのようだ。

「大きなお子さんも小さなお子さんも、どんどん来てほしいんです。」

そう語るのは、べーリック・ホールの館長を務める布川榮子さんだ。しかし、小さな子どもなど連れてきたら、美しい調度品を汚したり、うるさく駆け回って雰囲気をぶち壊しにしてしまったりしそうだが......

「子どもは汚す、子どもは騒ぐ、そう思いこんで子どもをシャットアウトすることはやめようと決めているんです。しっかり説明してあげれば、自分がどう振る舞うべきか理解できる子はたくさんいますよ。」

実は布川さん、山手西洋館4館の館長を一新した2000年に、エリスマン邸の館長を務めた人物。それまで「興味のある大人にだけ開かれた場所」だった山手の西洋館で、子どもが主体のイベントを開いた革命者でもある。



そのイベントが、2000年9月に始まった「絵本の部屋」だ。エリスマン邸の地下ルームを活かして、子どもたちに絵本の読み聞かせをしたのだ。開始早々、50人近くの親子が集まる人気企画となり、毎月一回ほどのペースで現在も続けられている。当時の写真には、絵本に夢中!といった顔つきの子どもたちや、それを温かく見守る親の顔が数多く残されている。


「まだハイハイしかできないような赤ちゃんまで参加してくれたんですよ。こういった公の場所、それも美しい場所で、親子が共通の体験をするということは大きな意味を持つと思うんです。」

大人でもうっとりするような、本当に美しいものに囲まれるということは、子どもにとって最上の情操教育になる。そして、厳しい「しつけ」の言葉を耳にするよりも、親のリラックスした表情や態度から、公の場での立ち振る舞いを子どもたちは学びとるようだ。





~ハロウィンで「変身」する子どもたち~

しかし、べーリック・ホールと子どもの関わりは、教養やしつけを学ぶ場だけにとどまらない。毎年恒例のイベント「山手西洋館ハロウィンウォーク」は、子どもが自分を自由に表現できる場になっているようだ。

「誰もが心の中に持っている"変身願望"を満たすことのできるハロウィンは、子どもたちが自己表現する日でもあります。」


そもそもこのイベント、2000年に行なわれた「山手西洋館フェスタ2000スタンプラリー」がきっかけだ。山手西洋館に足を運んでもらうことをねらって企画されたスタンプラリーだったが、どの西洋館の知名度も今ほどには高くない状態だった。そこで布川さんが提案したのが、「ハロウィン」という行事を楽しむ形にすることで、より多くの人たちに西洋館を知ってもらうという方法だった。

「ハロウィンで仮装できるとなれば、親子連れが多く参加してくれるはず。ただのスタンプラリーに比べて、参加者の満足度も高いと思ったんです。」

企画は大当たりだった。西洋館のスタッフが衣装を手作りして貸し出したり、氷川丸で行なわれた仮装大会などと連携したりすることで、当時国内ではめずらしかったハロウィンを楽しむきっかけになったのだ。現在では、1日に35,000人もの参加者が集まる一大イベントに成長。山手西洋館7館・山手68番館・岩崎ミュージアムをまわるスタンプラリーという形を残しながら、赤ちゃんから大人までが「変身」を楽しむ特別な日となっている。


「他者に変身して"なりきる"ためには、舞台設定も大切。特に、環境に影響を受けやすい子どもにとって、べーリック・ホールをはじめとする山手西洋館で変装をすることが大きな喜びになっているんです。」

子どもにホンモノを提供し、夢を与えられるベーリック・ホールだが、大人たちの未来を演出するステージとしても大いに活躍している。



~自由で上質なウエディング~



べーリック・ホールは他の山手西洋館とは一風変わった印象の建物だ。横浜に現存する西洋館の個人宅として最大規模というだけでなく、明るく鮮やかな色彩の外観が目を引く。スペイン風の建築様式で、レンガがアクセントに使われたライトベージュの壁面や赤い屋根が、ヤシの木をはじめとする庭の緑によく映えている。横浜市認定歴史的建造物に認定されている貴重な建築物であり、格調高い場所ではあるのだが、どこか人をのびのびとさせる雰囲気を持っているようだ。


その雰囲気のせいもあってか、べーリック・ホールという「ステージ」で何かしたい、と想像が膨らむ人は少なくない。ウエディングという一生に一度しかないイベントのために、べーリック・ホールを選ぶ人が多いのも納得だ。

そもそも、山手西洋館はウエディングの会場として人気が高い場所。2007年には38組のカップルが山手西洋館で誓いを立てたが、実はそのなかでも22組がべーリック・ホールを選んでいる。



「西洋館のウエディングは、一般公開が原則。親族や友人だけでなく、その場に居合わせたすべての人から祝福してもらえる幸せな式になるんです。」

さらに晴天に恵まれれば、南欧のムードあふれる庭園でガーデンパーティを楽しむこともできるのだとか。

「いわゆるお仕着せの結婚式ではなくて、自分たちの好みや演出にこだわりたい人に向いている場所だと思います。たとえば、あるジブリ好きのカップルは、本来なら花を置く場所すべてに、トトロなどのぬいぐるみを飾ったんですよ。」



品のある上質な式でありながら、自由な発想を活かす......そんなウエディングを夢見るカップルに、べーリック・ホールはうってつけのようだ。



~コンサートホールにはない魅力~

さらに、べーリック・ホールという「ステージ」で活躍するアーティストたちにも注目したい。
ここでは、広いリビングルームを使って、音楽を楽しむイベントが頻繁に行われている。山手西洋館というと、その歴史からクラシックコンサートを連想する人がいるかもしれない。しかし、音楽のジャンルにはこだわらないのだとか。

「音楽のジャンルには好みがあるもの。それよりも、べーリック・ホールにふさわしいかどうかをスタッフ同士で確認するようにしています。建物を管理するということは、この場所に流れる音楽にも責任を持つということだと思っていますから。」

実際に、これまで行なわれたコンサートには、さまざまなジャンルのアーティストが登場している。クラシックはもちろんのこと、ジャズやシャンソン、三味線などの邦楽も。国や地域などでテーマを設定し、「アイルランドの音楽と朗読」といった複合的なイベントが開かれることもある。



「ここはコンサートホールではないし、利益を出すための興業でもないので、最上級の演奏を期待するという場ではないと思っています。だから、時流に乗ったものでなくても、可能性を持ったアーティストが自由に表現できる場になることを心掛けているんです。」

高額なチケットを購入するコンサートとは違った魅力に取りつかれて、何度も足を運ぶ常連も多い。また、べーリック・ホールでは、演奏ボランティアによる無料のコンサートも開催されている。ふらっと訪れた人が気軽に音楽を楽しめるというのも、この場所の大きな魅力の一つかもしれない。



入場料が必要なコンサートも、価格は1,000~3,000円程度とかなりお手頃。しかも、ほとんどのイベントにドリンクやフィンガーフードが付くというから驚きだ。

「イベントに合った飲み物や食べ物を演奏後に用意することで、お客様同士はもちろんのこと、アーティストの方とのコミュニケーションも取りやすくなると思うんです。この距離の近さは、コンサートホールには真似できないものですよね。」



音楽としての質を保ちながらも、気軽に楽しめるコンサート。その絶妙なバランス感覚が保たれることで、べーリック・ホールという「ステージ」が輝き続けるのだろう。

ベーリック・ホールが市民に愛され、横浜の魅力的な西洋館としてこれからも存続するために行なっていることとは?

次章では、山手西洋館の恒例イベントの舞台裏について、引き続きべーリック・ホールの館長・布川さんにお話頂きます。

(つづく)


【巻末データ】
山手西洋館 事業報告(2000年、2002年、2007年度版)
(財)横浜市緑の協会

(語り手)
布川榮子(ぬのかわ・えいこ)
べーリック・ホール館長(山手事業所 所長代理兼任)。
西洋館を含む山手地区を魅力的なエリアにすべく尽力している。

横浜市緑の協会さんのアルバム

aruruさんのアルバム

(執筆者)河村仁美


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